9/23/2014

ユピックの怪物① パルレイヤック

友人と話していて、興味深い話を聞いた。アラスカ南西部のユピック・エスキモー社会では、数多くの怪物が記録されているが、その中のひとつにパルレイヤック(Palraiyuk)というワニ、もしくは竜のようなものがいる。以前、アラスカが今よりも温暖な気候であったときがあり、その時期にはパルレイヤックが湖などの湿地に住んで、近づく人や動物を襲っていたのだという。現在の気候になってからは、この怪物は絶滅してしまったのだと1880年代のユピックの古老は述べている(Nelson 1983[1900])。アメリカの博物学者・民族学者エドワード・ネルソンによれば、この怪物の図像は、1880年代にはカヤック、ウミアックの船体に頻繁に描かれていたのだという。また、パルレイヤックを描いたと見られる遺物がクスコクイン川流域の遺跡から見つかっている(Fitzhugh and Kaplan 1982)。

ある研究者によれば、このパルレイヤックは中国の竜、インドのナーガがアラスカまで伝播したものと考えることができるかもしれないのだという(Fitzhugh and Kaplan 1982:182-183)。下の画像は、ある考古学者のブログから拾ってきた。前段落にユピック・エスキモーが乗るカヤックの船体にパルレイヤックが描かれていると書いたが、中国、ラオスなどのドラゴンボートと実は同じルーツだったなどと想像すると楽しい(が、どれほど民族誌学的に正しい推測なのかはわからない)。この図版を見ると、確かに中国の竜に似ている気がしないでもないが、他の遺物に描かれているパルレイヤックとおぼしきものを見ると、ただのワニに見えなくもない。出典は忘れたが、人間が蛇に対して抱く脅威は先天的なものであるという実験結果があるとどこかで読んだ。様々な社会で記録されている竜、蛇、ワニなどの爬虫類系の怪物は、歴史的な接触の結果でもあるだろうが、意外と類人猿との共通祖先ぐらいから保ち続けている恐怖心の産物かもしれないと根拠なく思ったりもする。ただ、このパルレイヤックは、おどろおどろしいというよりもどこかおしゃれな感じがする。正直、ファイナルファンタジーの中ボスになって出てきてもおかしくないような雰囲気。

パルレイヤックPalraiyuk
ちなみに、以前、アラスカ人類学協会の年会で会って仲良くなった考古学研究者が上記ブログの写真に映っていて、世界の狭さを感じた。自分が掘り出したものが19世紀の探検家の著書にある図版と同じだったら・・・やばい。

もう少しユピックの怪物について書きたいことがあったのだが、書いていたら話がどんどん脱線していき、収拾がつかなくなりそうなので明日くらいにまた書こう。ユピックなどのエスキモー・イヌイット社会の怪物と日本・中国などの妖怪・怪物を比べるとおもしろいのではないか。今、日本では妖怪ブーム(?)らしいので、意外と昔の探検家の記録、現在の民族誌家のデータ、博物館の展示品、遺跡で見つかる遺物、先住民工芸家の作品などから図版を集めて本とか作ると新鮮かもしれない・・・。やりたいことリストのなかに入れておこう・・・。というか、水木しげるだったら、アラスカの「妖怪」たちをどのように図像化するであろうか。

参考文献
William W. Fitzhugh and Susan A. Kaplan (1982) Inua: Spirit World of the Bering Sea Eskimo. Smithonian Institutional Press.
Edward W. Nelson (1983[1900]) The Eskimo About Bering Strait. Smithonian Institutional Press.

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